『向日葵』



大地の母の温かな腕の中 ある日 小さな種は思った

・・・・・・外の世界を見てみたい・・・・・・

母は静かに言った 「そうか。それなら行くが良い。だが我が子よ よくお聞き。

地上は楽しいばかりではない。厳しく苦しい事もある。

虫に食まれてしまうやもしれぬ。花を咲かせず枯れるやもしれぬ。

それもお前の運命だと受け入れる覚悟があるならば 母はお前を止めはしない」

種は答えた 「それでも私は行きたい」と


かくして種は芽を出した

何と眩い世界だろう!何と綺麗な世界だろう!

だが 小さな命に過酷な外界は容赦なかった

幾日も 幾日も 幾日も 現実は彼を苦しめた

それでも彼は耐え抜いた


ある日 闘いに疲れた彼の意識に ふいに誰かの声が響いた

「私の声が聞こえるか。私は太陽 外界の父だ。 お前は良く頑張った。見るがいい お前の闘いの証を」

彼は我が目を疑った これが小さなあの僕か?

小さくひ弱な彼はなく 濃い緑の堂々とした幹と立派な葉 そして父に生き写しのような大輪の花・・・・・・!

見事な向日葵になった彼がそこにいた

驚き喜ぶ彼に父は言った 「これからお前に『未来』を託す。

これはお前がどれだけ頑張ったか お前がどれだけ立派になったかの お前の母への言づてでもある。

お前のような強い子を 次代も地上に送り出してほしいと」

いつしか花はたくさんの種となり 彼は『未来』の意味を悟った

残り僅かな力を振り絞り

彼は父に深々と一礼をした


◇夏の代表花・向日葵。最後の一文『深々と一礼』は、たくさん種をつけた向日葵がお辞儀をしているように見えた事を表現してみました◇